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1980年代 カラーグラフィックス表示市場の拡大 ~集積回路~ |
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コンピュータの情報を出力するディスプレイ表示は、ニキシー管のような専用の管球を用いるものからブラウン管(CRT)を用いる方式になり、電子線を直接走査して文字や図形を描くランダムスキャン型から、テレビのように隅から隅まで操作するラスタスキャン型へと発展した。ラスタスキャン型CRTの表示は、白黒のみのモノクローム(単色)表示からカラーや多階調表示へ、表示内容はキャラクタジェネレータを介して文字のみを表示する方式から、あらかじめ設定されたグラフィックスパターンを表示するセミグラフィックス方式、そして1フレーム分の画素単位のメモリを持つフルグラフィックスへ、と発展してきた。1980年代はラスタスキャン型CRTへの2次元グラフィックス表示が一般化した時代である。 1981年、NECはグラフィックス機構を内蔵するLSI(GDC:μPD7220)を発表した1)。直線や円弧などの図形を描く機能を有する画期的なLSIであった。その後1984年、日立は表示系CRTコントローラ(CRTC:HD46505,HD6845)2)の後継となるアドバンストCRTコントローラ(ACRTC:HD63484)を発表した3),4)。図1にチップ写真を示す。1980年前後は、マイクロコンピュータが8ビットから16ビットへ移行した時期である。CPUの16ビット化の動きに合わせて、各社でそれに合わせた周辺LSIの開発が進められ、日立ではその一環として、上記のACRTCやフロッピーディスクコントローラ(FDC)の開発が進められた。 ACRTCは、カラーグラフィックスを直接制御する機構(パックトピクセル方式)に特徴がある5)。パックトピクセル方式は、メモリの1ワードの中に、カラーデータを表現する画素データをパックして記憶する方式である。図1にプレーン型とパックトピクセル方式の違いを示す。プレーン型はモノクロームのメモリ構成を複数並べるもので、構成はシンプルだが、カラー表示に必要なビット数(nビットで2のn乗色)が増大すると処理が遅くなる。一方のパックトピクセル方式は、カラービット数が増えても処理時間は変わらないので、カラー表示に優位な方式である。ACRTCから約2年遅れて、TIのTMS34010をはじめ各社からグラフィックスコントローラLSIの発表が相次いだが、いずれもパックトピクセル方式を適用しており、その優位性は明白であった。 ACRTCの初期のアプリケーションは、パソコンにアドオンで搭載するグラフィックスアクセラレータボードであった。多くのメモリを必要とするフルカラーグラフィックスは、パソコンに標準搭載するには高価なため、マニア向けの製品として利用された。一方、1980年代は自動車の電子化が進み始めた時期であり、カーナビゲーションシステム(以降、カーナビと記す)の開発がスタートした時代である。世界初のカーナビと言われているのは、1981年のホンダ・エレクトロ・ジャイロケータである。まだデジタル地図はなく、CRTには現在位置の点のみを表示し、その上に透明な地図シートを重ねて使うというものであった。1987年にはトヨタクラウンのカーナビが発売され、ここにはデンソーがデジタル化を進めた地図を画面に表示するため、ACRTCが使用された。この時期のカーナビは、ジャイロセンサーを用いる自律航法によっていたが、1990年代以降GPSが利用できるようになってカーナビの普及期を迎えた。ACRTCとその後継機種は、この領域で多くのシステムに適用されトップシェアを占めた。パソコン本体への適用では限られたが、カーナビを始め多くの組み込み用途で利用され、社会インフラに関わるシステムなどでも多用されたので、半導体製品としては珍しく20年を超える長寿命製品となった。 パックトピクセル方式6)は、パソコン、カーナビ、ゲーム機、等々、デジタルでカラーグラフィックスを表示する際に不可欠の基本技術となり、多くのシステムで活用されている |
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図1 ACRTC チップ写真
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図2 パックトピクセル方式
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【参考文献】
【移動ページ】 集積回路/該当年代へ 【最終変更バージョン】 rev.001 2022/3/25 |