1973年
SPICEの開発
(米国University of California, Berkeley)

〜集積回路〜



回路シミュレーション(circuit simulation)とは、電子回路のアナログ動作をコンピュータで模擬することを言い、回路シミュレーションを実行するEDAツールを回路シミュレータと呼ぶ。

回路シミュレーションの萌芽は1960年代にあった。初期には、ブランチ(回路表現の最小単位)の各端子の電圧、電流を方程式として形成する状態変数解析法と呼ばれるアルゴリズムを用いたTAP(1962年IBM)、CIRCUS(1965年BOEING)が開発された。またノード(信号線)の電圧を未知数として方程式をたてる節点解析法を採用したECAP(1965年IBM),CANCER(1971年UCB)が開発された。

SPICE (Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis) は、 California大学Berkeley校が1973年に開発した回路シミュレータで、CANCERを改良して作られたものである。シミュレーション対象となる電子回路は、受動素子(抵抗やコンデンサなど)と能動素子(ダイオードやトランジスタなど)と伝送線路と各種電源を組み合わせたものである。解析手法としては、過渡解析、直流解析、小信号交流解析、雑音解析などが可能である。もともとSPICEは集積回路に使用する電子回路の設計を目的として開発されたものであるが、高速動作の論理LSIを実装したプリント回路基板の設計・検証においても不可欠なツールとなっている。

SPICE には、Fortran 言語により作成された SPICE2 (1981年にSPICE2G6)、C 言語により書き直された新しい SPICE3(1986年にSPICE3A7)があり、これらのソースコードが公開されていることから、多くの市販ソフト(HSPICE, PSPICE 等)や、フリーソフト(ngspice 等)が派生している。市販品には、回路図エディタとのリンク、プリ・ポスト部のマンマシンインターフェイス、デバイスライブラリの充実、デジタルシミュレータとのリンク、最適化機能の拡充がなされている。

回路シミュレータの主流となっている手法は,「修正節点法」と呼ばれる回路方程式の定式化法と,解析式を使った「デバイス・モデル」を組み合わせたものである。修正節点法では,回路内のノード電圧と電圧源素子に流れる電流を変数として,「キルヒホッフの電流電圧法則」に基づく行列方程式を立てる。また個々のトランジスタに流れる電流を計算するためにデバイス・モデルを用いている。デバイス・モデルは実測した電気特性(電流電圧特性と容量電圧特性)をモデルにしたもので、理論的あるいは実験的な考察に基づいて開発された解析式を用いる。

このようにして作られた回路方程式は,非線形の連立常微分方程式となり、これらを離散化、線形化して、直接法行列求解法で解析する。この方法は,数値計算上の理論的誤差が極めて少ない解法であることが知られている。どんな種類のデバイスや回路構成であっても汎用的に適用できる。半面,適用可能な回路規模は、2万〜3万素子程度が限界である。また、一般にデバイス・モデルを表す解析式は複雑で非線形性が強いため,適切な初期値を与えないと,回路シミュレーションが収束しないことがある。 

図 1980年ころの回路シミュレーション例4)

【参考文献】
1) 回路シミュレーション
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20090107/163751/
2) 「SPICE(ソフトウエェア)」『フリー百科事典ウイキペディア日本語版』(2010年5月17日01:10)
http://ja.wikipedia.org/wiki/SPICE_(ソフトウェア)
3) フォーマット・モデリングの標準化
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20090107/163723/?ST=print
4) 池本 康博ほか LSI開発における設計自動化 日立評論 Vol. 64 No.7 (1988年7月号)


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【最終変更バージョン】
rev.001 2010/10/26