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1983年 16bitマイクロプサッサV30の開発(NEC) 〜集積回路〜 |
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V30は1983年に商品化されたNECの16bitマイコン(厳密な分類では、ROM/RAM、入出力機能を搭載しないマイクロプロセッサ:Microprocessor/MPU)の名称。 当時16bitマイクロプロセッサとして、デファクトスタンダードであったIntel社のi8086と、レジスタセット/命令セットなどのアーキテクチャ、および端子機能/配置で上位互換性を有しながら、高性能・低消費電力を実現した(i8086に対して同一クロック周波数時1.5倍の性能、1/3の消費電力)。2ミクロンCMOS技術を用い、6.4mm×7.3mmのチップに63,000トランジスタを集積している。 この製品はNECのPC9801シリーズなどのパーソナルコンピュータ、ワードプロセッサ、ファックス、プリンタなどのOA(Office Automation)機器、交換機や産業制御機器などに幅広く採用された。 NECのマイコンビジネスは、1982年から世界一の出荷数量に達した。同時に、以後世界のトップであり続けるためには、16bitや32bitなどのハイエンド・マイクロプロセッサの分野でも確信性・オリジナル性が求められるとの見地から、CMOS技術をこの分野にいち早く全面的に取り入れ、オリジナルマイコン製品群「Vシリーズ」の開発に着手した。NMOS技術の集積度向上に伴う発熱の問題を回避するために、高性能CMOS技術を採用し、しかも従来品の継承性を重視したマイコンを狙った。 V30はVシリーズ初の16bitマイコンである。 さらに、V30の外部バス8bit版であるV20、入出力機能を搭載したV40/V50などを次々に商品化を開始した。Vシリーズはその高機能・高性能・低消費電力が市場に認められ、世界中で採用が広まった。 ところが、Intel社が「16bitVシリーズはi8088/8086のマイクロコードの著作権を侵害しているために訴訟を起こす」との噂が米国において広がったため、NECは1984年末にIntel社を相手取り、V20/V30/V40/V50のマイクロコードがIntel社の著作権を侵害していない旨の確認訴訟を米国カリフォルニア州連邦裁判所に提訴した。 米国における裁判であること、当時半導体摩擦の熱が高いことなどの不利な状況下での係争であったが、NECとして初めての徹底的な法廷活動を4年余りに亘り展開した。1988年に連邦裁判所はNECの主張を全面的に認める判決を下した。同時に、当時LSI上に組込まれたマイクロコードの著作権を認める判例となり、半導体業界全体の著作権の取扱い方に一石を投じた。 1990年には、最新プロセス技術を採り入れ、さらに高速動作化による性能向上と低電力化を図ったHLファミリ(V20HL/V30HL/V40HL/V50HL)を開発。16bitVシリーズは、コアとなる製品と周辺機能の展開、シングルチップマイコン(Microcontroller/MCU)とし開発を幅広く行ない、アーキテクチャが業界標準であるV25/V35(1986年開発のMCU)も含め24品種を開発した。 なお、1986年に国内初の32bitマイコンとして商品化されたV60を皮切りに、32bitVシリーズの開発も進められた。その後、VシリーズマイコンはNECのマイコンにとってテクノロジドライバとなった。1994年以降、RISCアーキテクチャを採用した32bitMCUであるV850は、現在も製品展開が進められている。 四半世紀以上にわたり、同一の愛称を冠したマイコンは、世界中でいまや「Vシリーズ」だけになった。時代の要請に先んじて、機能・性能を向上させてきた結果と言える。ちなみに、V10は1970年代後半から、8bitマイコンでデファクトスタンダートとなっていた、Z80のCMOS版に割り当てられた愛称である。 |
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図1 V30のチップ写真 (提供:ルネサスエレクトロニクス) |
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図2 NECのμPD8086のチップ写真 (提供:ルネサスエレクトロニクス) |
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図3 V20/V30のパッケージ写真 (提供:ルネサスエレクトロニクス) |
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【参考文献】 【移動ページ】 集積回路/該当年代へ 【最終変更バージョン】 rev.001 2010/10/23 |