|
||||||||||
2022年 200mm SiCエピウェハーのサンプル出荷開始 (レゾナック) ~プロセス技術~ |
||||||||||
SiC(シリコンカーバイド)はSiに比べて、バンドギャップエネルギーが約3倍、絶縁破壊電圧が約10倍、電子の飽和ドリフト速度が約3倍、熱伝導率が約10倍大きい。pn制御もでき、熱酸化による酸化膜成長も可能で、MOS構造がつくれる利点があり、高耐電圧、高温動作のパワーデバイスが実現できる。耐圧数kV、電流数kA動作のショットキーバリアダイオードや、MOSトランジスタが開発され、新幹線車両や電気自動車などに搭載されている1)。 素材のSiCウェハーは、現在、直径150mmの(0001)面(c面)を4°オフした4H-SiC結晶が主流となっている。デバイス価格低減のため、直径200mmウェハーの開発が待たれていた2),3)。 ウェハーの製造は、単結晶インゴット成長、スライス・研磨加工、エピタキシャル(エピ)成長の3段階で行われる。 単結晶インゴットの製造は、図1(a)に示すような昇華(改良Lely)法が採用されている。黒鉛製ルツボに粉末状SiC原料を充填し、ルツボを2200~2400℃に加熱して、SiC原料を昇華させ、ルツボ上部に設置したSiC種結晶表面に再結晶させる。 SiC結晶には、マイクロパイプ、貫通らせん転位(Threading Screw Dislocation: TSD),貫通刃状転位(Threading Edge Dislocation; TED)、基底面転位(Basal Plane Dislocation: BPD)など、いろいろな結晶欠陥(転位)が導入される。これらの結晶欠陥は、デバイス特性の劣化を招くため、その低減が必要になる。 豊田中研とデンソーは、転位は主としてc軸の垂直方向に伝搬する性質を活用して、a面成長を繰り返すことで転位を低減するRAF(Repeated A-Face)法を2004年に発明した4)。 図2に示すように、c軸方向に成長したインゴットからa面結晶を切り出し、これを種結晶としてa面成長する。成長したインゴットから異なるa面結晶を切り出し、これを種結晶にして、さらにa面成長を行う。この一連のa面成長を複数回繰り返した後、最後にa面成長したインゴットからc面結晶を切りだし、これを種結晶にして通常のc面成長をおこなう。デンソー、豊田中研、及び昭和電工(現レゾナック)は、2013年にこの方法による150mm径ウェハーで、大幅な品質改善ができることを確認した。 昇華法では、結晶成長速度は0.3mm/h~0.5mm/hと遅く、ルツボ内の原料が枯渇すると成長が止まるため、インゴットの成長は長さ30mm-50mm程度に限られる。ガス結晶成長法(High Temperature Chemical Vapor Deposition: HTCVD)は図1(b)に示すように、キャリヤガスのH2と原料ガスのシラン(SiH4)とプロパン(C3H8)を高温ルツボ内に導入する。誘導加熱でガス温度を2500-2550℃に高め、熱分解した原料ガスのSiとC原子を、種結晶表面でSiC結晶に合成する。連続的な結晶成長が可能で、昇華法の約10倍高い2mm/h~10mm/hの結晶成長速度が得られる。また、昇華法に比べて2桁以上高純度の結晶に成長させることができる。 2020年にデンソーと電力中央研究所は、半径方向に温度分布の少ない反応炉を開発し、オフ角を有するc面4H-SiC種結晶で、成長条件の最適化によって、結晶が成長するにしたがって転位が減少する性質を活用し、昇華法の約10倍の成長速度で、高品質の150mm径SiCバルク結晶成長を実現できることを示した5)。 溶液成長法(Top Seeded Solution Growth: TSSG)は、Siを主成分とする合金溶媒をカーボンルツボ内で溶解し、ルツボのカーボンが溶出して合成されるカーボン含有Si合金溶液から、SiCを種結晶上に結晶成長させる。成長時の結晶中の温度差が小さく、転位が導入されにくい利点がある。トップシードで、長尺インゴットの成長も可能である。C溶解度の高い合金触媒(Si-Cr系、Si-Ti系、Si-Nd系)を活用することで、2mm/h程度の結晶成長速度が得られる。 名古屋大学は、表面に数10nmの高さのマイクロステップのある種結晶に結晶成長すると、貫通転位がc面内の転位や積層欠陥に変換されることを発見した。この性質を利用すると、結晶成長とともに、転位が外部に排出され、高品質のSiC結晶が実現できる。結晶成長中の結晶成長表面に最適のマイクロステップを常に保持するには、合金溶液の流れ(熱対流、電磁対流など)を精密に制御する必要がある。名古屋大学は、熱流体シミュレーションなどのプロセス・インフォマティクスの活用により、Si-40 at.% Cr-2 at.% Al溶液を用いて、4°オフ種結晶から1,860℃で150mm径結晶インゴットを成長し、TSD(Threading Screw Dislocation、ねじ転位):200/cm2 の高品質を実現した。さらに、200mm径結晶の成長にも成功している6)。 高耐電圧デバイスには膜厚100-150μmの厚いエピタキシャル層が必要で、高速のエピタキシャル結晶成長が必要になる。電力中央研究所、デンソー、昭和電工(現レゾナック)、及びニューフレアテクノロジーは、H2-SiH4-C3H8-HClを含んだガスシステムをもちいて、成長温度1,550~1,650℃で、ウェハーを高速回転(最大1,000rpm)させ、50µm/h以上の高速成長と膜厚均一性を実現するエピタキシャル結晶成長技術及び装置を開発した5)。この技術開発に対して、第50回(2023年度)岩谷直治記念賞(高品質SiC単結晶膜の高速製造技術の開発と応用)が贈られている7)。 |
||||||||||
|
||||||||||
|
||||||||||
|
||||||||||
【参考文献】
【移動ページ】 個別半導体他/該当年代へ 【最終変更バージョン】 rev.001 2024/7/11 |