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2004年 76GHz車載レーダー用 InGaP/InGaAs HEMT MMIC開発 (富士通) ~個別半導体・他~ |
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近年、イメージセンサー、ミリ波レーダー、レーザーレーダー、ソナーなど、様々な周辺監視センサーが、自動車の周辺環境把握に使われている。ミリ波レーダーは、150m以上の検出距離が確保でき、観測対象との相対速度が測定できる。太陽光(逆光)の影響を受けないし、雨、霧などに対する透過性も高い。今では多くのメーカの車にミリ波レーダーが搭載されている。 国内では、1995年に車載レーダーとして周波数60GHzの使用が許可された。1997年3月に世界で初めて、小松のダンプトラックに、富士通テンが開発した60GHz帯自動車用ミリ波レーダーが搭載された(1)。レーダーの心臓部となるミリ波送受信部は、4種類の、ゲート長0.25μmのAlGaAs/GaAs HEMT MMIC(Microwave Monolithic Integrated Circuits)で構成された。60GHzの電波は空気(酸素分子)による減衰が大きいという問題があり、1999年に日欧米共通の周波数76GHzの使用が法制化された。 富士通は1998年に、76GHzレーダーのミリ波送受信部用に、ゲート長0.15μmのInGaP/InGaAs HEMT技術で、76GHz増幅器、76GHzミキサーなど6種類のMMICチップセットを開発した(2,3)。2003年にはそれらを3チップにまとめることに成功、これを使用した富士通テンの76GHz帯ミリ波レーダーがホンダ・インスパイアに搭載された(4)。さらに2004年には、これらの1チップ化に成功した(5,6)。これを使用した富士通テンの76GHzミリ波レーダーは、2005年にはレクサスLS460、2008年にはクラウンの後方監視レーダーに、2009年には、世界初の前側方レーダーとして、クラウンマジェスタに搭載された(7)。 車載レーダーは、ターゲットまでの距離と相対速度が計測できるFM-CW(Frequency Modulated Continuous Wave )方式を採用しており、そのシステム構成概略を図1に示す。FM-CW方式は、時間とともに周波数が変化する電波を発射し、送信波と受信波を干渉させてビート信号を発生させ、その周波数を検知解析する。ミリ波送受信部(ミリ波ユニット)とそれに接続する平面アンテナをアクチュエータで左右に振動し、ミリ波ビームのスキャンを行う。 1チップ化したミリ波ユニットのブロック図を図2に示す(5)。電圧制御型発振器(Voltage Controlled Oscillator:VCO))で周波数変調された38GHz信号は、ブランチハイブリッド回路で2つに分離される。分離した信号のうち1つはローカル信号として38GHzアンプで増幅後、逓倍器に入り、76GHzアンプで再度増幅され、ミキサーのローカルポートに供給される。また別の分離した信号は、38GHzアンプにより増幅後逓倍器に入り、76GHzアンプでさらに増幅され、ブランチラインハイブリッドを通って、アンテナより放射される。受信信号は、76GHzブランチハイブリッドを通って、アンプにより増幅され、0-180度ハイブリッド回路から1対のシングルエンドミキサーによりダウンコンバートされ、IF信号として出力される。 MMICは、InGaP/InGaAs HEMTプロセスをベースにしている。図3にHEMTの断面構造を示す(2)。半絶縁性GaAs基板上に、電子供給層のn-InGaP層と電子走行層のi-InGaAs層がMOCVDで形成される。ゲート電極はT型(リセス)構造でゲート長は0.15μmである。HEMTは、fT(遮断周波数)90GHz、fmax(最高発振周波数)170GHz、76Ghzで9dBの増幅利得の特性を有し、MMICから約10mWの電力のミリ波電波が出力できる。チップ内のミリ波伝送線路はCPW(Co-Planer Waveguide)が用いられ、入出力・素子間整合回路はCPWの分布常数回路で形成される。回路の一部と統合MMICチップ全体の写真をそれぞれ図4、5に示す。MMICは気密パッケージのセラミック基板にフェースダウン・フリップチップ実装される。不要モード発生を避けため、図6に示すように、250本以上の円柱状金ピラー(直径:40µm、高さ20μm)を随所に形成している。 2010年代になると、微細加工技術の進歩により、SiGe BiCMOSプロセスを用いた76GHz帯ミリ波レーダーの送受信ICが開発され、化合物半導体 MMICの置き換えが始まった。富士通テンは2012年に、SiGe BiCMOSで構成したマルチチャネル送受信器と、従来のメカニカル走査の代わりにフェーズドアレイアンテナをもちいる電子走査を採用した、76GHz三次元スキャンレーダーを製品化し、2016年10月までに累積100万台生産を達成した(8,9)。 |
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図1 レーダーシステムブロック図
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図2 ミリ波ユニットのブロック図
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図3 InGaP/InGaAs HEMT断面構造図
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図4 76GHz増幅器の部分(2)
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図5 チップ全体写真 寸法(2.3mm x 3.7mm)(4)
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図6 円柱金ピラーの顕微鏡写真(3)
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図7 76GHz 3次元スキャン車載レーダー(8)
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【参考文献】
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