2003年
W-CDMA基地局用GaN HEMT開発(富士通)
〜個別半導体・他〜


GaN結晶はバンドギャップが大きい、融点が高く物理的強度が高い、絶縁破壊電界が高い、熱伝導率が大きい、電子の飽和速度が大きい、誘電率が小さいなど、高周波高出力素子としての大きな可能性を秘めている。1993年のInGaN/GaN青色LEDの成功以来、GaN系結晶技術が非常に進展し、GaN系高周波・パワーデバイスの開発も加速した。GaNはバルクの電子移動度はSi, GaAsに比べて低いが、AlGaN/GaN HEMT構造では2次元電子ガスチャネルがえられ、電子移動度は高くなる。また、AlGaNとGaNの間に発生するするピエゾ分極と自発分極の効果でGaAs HEMTの10倍の高い2次元ガス濃度がえられる。このためGaN HEMTが最も活発に開発された。

GaN HEMT開発で大きな課題となったのが、理論予測よりもゲート耐圧が低く、ゲートリーク電流が大きいこと、走行電子が素子内にトラップされて出力電流が低下する(電流コラプス)現象である。富士通の吉川らは、HEMT構造の表面部分にn型不純物をドープしたGaN層を導入する表面電荷制御構造HEMTを2001年に提案した。酸化しやすいAlを半導体表面に持たないために、表面トラップの発生が防げる。GaN層内のトラップも結晶成長法の工夫で現象させて、電流コラプス現象を抑制した結果、2004年に2.2GHzで出力170WのGaN HEMTの開発に成功した。このチップを2個並列使用したプッシュプル型増幅器で250WのW-CDMA信号を得た。

より高周波・高出力に向けてGaN HEMTの開発は国内外で活発に続いている。

三菱電機は2010年3月に衛星搭載用Cバンド(3.7-4.2GHz)GaN HEMT高出力増幅器(出力電力100W)のサンプル出荷を開始した。Xバンドからミリ波帯での動作報告も国内外から多数あり、このデバイスへの期待は大きい。

GaNの破壊電界強度はSiの約10倍なので、ドリフト層厚さを薄く、ドーピング濃度を高くしても、高耐圧を確保できる。今ため超低オン抵抗のスイッチングデバイスが実現できる可能性がある。電源回路用にはエンハンスメント型HEMTが重要である。名古屋大の水谷らはAlGaN層の上にInGaNキャップ層を設けるHEMTを、富士通の金村らはMIS構造HEMTを開発した。International Rectifierはエンハンスメント型GaN HEMTのDC-DCコンバータを2010年2月に発売した。


図1 表面電荷制御構造を導入したHEMT(2)


図2 InGaNキャップ層を導入したエンハンスメント型HEMT(4)


図3 High−κゲート絶縁膜を使用したエンハンスメント型HEMT(5)

【参考文献】
(1) T. Kikkawa, M. Nagahara, N. Okamoto, Y. Tateno, Y. Yamaguchi, N. Hara, K. Joshin, & P.M. Asbeck, “Surface-charge controlled AlGaN/GaN-power HEMT without current collapse and Gm dispersion”, Tech. Digest of IEDM, pp. 585-588, (Dec. 2001)
(2) 吉川 俊英、常信 和清、久保 徳郎、“GaN-HEMTを使用したW-CDMA基地局用高出力増幅器”、Fujitsu, Vol. 54, No.4, pp. 319-325, (July, 2005)
(3) “衛星搭載用「C帯GaN HEMT高出力増幅器」を開発”三菱電機ニュースリリース(2010年2月25日)http://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2010/0225.htm
(4) T. Mizutani, M. Ito, S. Kishimoto, & F. Nakamura, “AlGaN/GaN HEMTs with thin InGaN cap layer for normally off operation”, IEEE Electron Device Letters, Vol. 28, No. 7, pp. 549-551, (July 2007)
(5) M. Kanamura, T. Ohki, T. Kikkawa, K, Imanishi, T. Imada, A. Yamada, & N. Hara, “Enhancement-mode GaN MIS-HEMTs with n-GaN/ i-AlN/ n-GaN triple cap layer and high-κ gate dielectrics”, IEEE Electron Device Letters, Vol. 31, No. 3, pp. 189-191, (March 2010)
(6) International Rectifier New Product Release Info. (Feb. 23, 2010)
http://www.irf.com/press-room/press-releases/nr100223


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rev.001 2015/7/6