1987年
衛星TV受信向低雑音HEMT発売(富士通・ソニー)
〜個別半導体・他〜


HEMTによるマイクロ波、ミリ波低雑音増幅の可能性が1984,5年頃から国内外のいくつかの研究機関で実証されていた。これまでHEMT結晶はMBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線結晶成長)で作成されており、Varian社の分子線結晶装置GEN IIが伝説的な存在であった。MBE結晶成長法は実験装置としては優れているが、大口径結晶成長、大量生産には向いておらず、量産に適した結晶成長方法がもとめられていた。

ソニーの田中らは、トリメチル有機金属(TMA,TMG)とアルシン(AsH3)をもちいるMOCVD法で、高電子移動度の2次元電子ガス層を有するAlGaAs/GaAsヘテロ接合結晶を成長する技術を開発した。図に示すように、厚さ10nmのアンドープAlGaAsスペーサ層をAlGaAs/GaAsヘテロ界面に導入する、あるいは、基板結晶からの結晶欠陥の伝搬を食い止めるためAlAs/GaAs超格子バッファ層を導入するなどの工夫がなされている。

この結晶をもちいて、周波数12GHzで雑音指数0.8dB、利得12.5dBのHEMTを開発、商品化した。

また、富士通の常信、羽生らは、断面がT型のセルフアライメント型のHEMTを考案し、周波数12GHzで雑音指数0.54dB、利得12.1dBの性能を実現し、商品化した。

1987年にNHK-BS1が24時間放送を開始、欧州通信衛星機構(Eutelsat)も1989年に東ヨーロッパをカバーする衛星を打ち上げるなど、衛星TV時代が到来していた。低雑音HEMTを用いると、直径30cm以下の室内パラボラアンテナで衛星TV 放送が受信可能になるため、大大的に使用された。

1990年代になると、国内各社(東芝、NEC、三菱電機)もこの分野に参入し、現在でもマイクロ波、ミリ波帯の重要デバイスとして活躍している。


低雑音HEMTの断面構造(1)

12GHzで1dB以下の雑音指数を達成した(1)

【参考文献】
(1) K. Tanaka, et.al, “Low-noise HEMT using MOCVD” IEEE Trans. Electron Devices, vol ED-33, No. 12, pp. 2053-2058, (Dec. 1986)
(2) S. Fujita et. al., “Extremely low noise InGaAs/InAlAs HEMT grown by MOCVD” Electronics Letter Vol.29, no.17, pp. 1557-1558 (Aug. 1993)
(3) K.Joshin et al., “Low noise HEMT with self-aligned structure” Conf. on Solid State Devices & Materials, pp347-350, (1984)
(4) I. Hanyu et al., “Super low-noise HEMTs with a T-shaped WSi gate” Electron Letter, Vol. 24, pp1327-1328 (1988)


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rev.000 2010/10/08