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2022年 共鳴トンネルダイオード(RTD)を用いた テラヘルツ発振デバイス開発 (キヤノン) ~個別半導体・他~ |
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周波数0.1~10 THz(空間波長3mm~30μm)の電磁波はテラヘルツ波と呼ばれている。電波と光波の境界に位置し、その発生や検出など技術的に取扱いが難しいことから、電波望遠鏡や人体スキャンに使用される程度で、未開拓のまま残されてきた。近年、技術の進歩により、テラヘルツ帯の電磁波を新たなイメージングや計測検査、大容量通信に利用する可能性が注目されている。通信分野では、第6世代移動通信システム(6G)で電波帯域がテラヘルツ波になる。2020年3月に商用を開始した第5世代移動通信システム(5G)では、電波帯域を数十GHzに拡張して通信速度10Gbpsの無線通信が可能になった。2030年代の実用化を目指す6Gでは、テラヘルツ波の利用によって100Gbpsの高速無線通信を実現することが計画されている。直進性が強く、水蒸気による吸収で減衰が大きいため、室内あるいは短距離のローカルエリア無線通信に限定されるが、テラヘルツ波通信は、Beyond 5G/6Gネットワークのアクセスポイントで超高速データレートを得るための有力な候補とみなされている1)。 テラヘルツ波源は、量子カスケードレーザーなどの光デバイス、IMPATTダイオード逓倍などの電子デバイスが商品化されているが、大型装置になりやすい。これに対し、共鳴トンネルダイオード(RTD:Resonant Tunneling Diode)は、室温で動作する単体の電子デバイスで、テラヘルツ波の基本波発振が得られる事から注目されている。 共鳴トンネルダイオード(RTD)の構造の一例を図1に、その伝導帯電子のポテンシャル分布を図2に示す2)。RTDの主要部は、両側を障壁層(AlAs)で挟まれた量子井戸層(InGaAs)で構成されており、電子の伝導は、量子井戸の共鳴準位を介して行われる3)。このため、電子を供給するステップエミッタ(InAlGaAs)の伝導帯底が共鳴準位以上の高さになる印加電圧では、電流電圧特性において、図3に示すように、電圧の増加とともに電流が減少する負性抵抗が発現し、発振動作が可能になる4)。 キヤノンは、アンテナ面の垂直方向にテラヘルツ波が発射されるパッチアンテナとRTDを組み合わせた発振デバイスを発案した5)。これを発展させて、図4に示すテラヘルツ発振デバイスを開発した6),7)。心臓部のRTDチップは、6×6(36)個のパッチアンテナアレイのモノリシック集積で構成されている。InP基板上に結晶成長したInGaAs-InAlAs系の二重障壁RTDを採用している。RTDの下部電極層をグランドプレーンとして、InP基板上にパッチアンテナとストリップライン等を一体集積している。パッチアンテナの一辺の長さは、実効波長の1/2(170μm)に設定される。1つのパッチアンテナにRTDが2個、プッシュプル動作で発振する位置に配置され、いわゆるdouble-resonant-tunneling-diode patch-antenna構造8)を採用している。 パッチアンテナアレイにおいては、アンテナは400μmピッチで配置されている。各パッチアンテナは、X方向(パッチアンテナの共振と直角方向)は1実効波長、Y方向(パッチアンテナの共振と並行方向)は実効波長の1/2の長さのマイクロストリップ線路で接続されている。これにより、全パッチアンテナは同一モードで同期されるため、アンテナアレイ内の72個のRTDが同期したコヒーレント発振が生ずる。本構成により、6×6(36)個のアンテナアレイにおいて、周波数0.45THzで出力11.8mWのテラヘルツ波がアンテナ面の垂直方向に放射され、コヒーレント発振により放射強度210mW/sr、3dBビーム幅13度の高い指向性を実現している。 構造寸法を選ぶことで発振周波数を設定出来ることも確認されている。従来、μW台の発振出力に限られていたRTDにおいて、10mW台の発振出力が得られるようになり、テラヘルツイメージングだけでなく、レーダーセンシングや、将来の6G通信などで活用が期待される半導体デバイスである。 |
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【参考文献】
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