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2021年 10W級高出力青色半導体レーザーダイオード開発 (日亜化学) ~個別半導体・他~ |
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日亜化学は、1996年に青紫色(波長:410nm)GaN系半導体レーザーダイオード(LD: Laser Diode)の室温連続動作に成功した1)。2001年の低転移密度GaN基板の開発・量産開始など、多くの関連技術開発の結果、青紫色GaN系半導体LDの性能は飛躍的に向上し、2003年にはこれを使用したBlue-ray Disc(BD)が発売された2),3)。 GaN系((AlGaInN四元合金)半導体は、その組成によってエネルギーバンドギャップが大きく変化し、深紫外から赤外までの広い波長範囲の発光素子が実現できる。しかし、長波長化にはIn組成を増加させるため、相分離など多くの問題が発生する。これを解決するLD構造と製造技術の開発により、青色(波長:450nm)、緑色(波長:525nm)帯高出力半導体LDが開発され、レーザープロジェクタ、レーザーTV、ディジタルシネマなどのレーザーディスプレイが実現した4)。さらにレーザー加工の分野では、ガスレーザー、ファイバーレーザーの波長(赤外域)では吸収率の低い難加工材料の銅(Cu)に対し、吸収率の高い波長の青色LDが注目され、その高出力化が進んでいる5)。 GaN系半導体は、窒素の高い平衡分圧のため、融液からのインゴットの成長は不可能に近い。このため、GaN系のデバイスは、サファイア、GaAsなどの異種基板上にGaN薄膜結晶を成長する技術により実用化が始まった。この場合、基板と成長層の格子常数や熱膨張係数の違いで、GaN層中に108~109/cm2台の高密度の貫通転位が存在していた。電流密度の低いLED(Light Emitting Diode)では転位の影響は深刻なものにならず、実用化された。しかし、電流密度が桁違いに大きいLDでは、低-転位密度のGaN結晶の実現が必要であった。 GaN結晶は、成長条件によって結晶成長のファセット面が変化する。この性質を利用した横方向選択成長(Epitaxial Lateral Overgrowth: ELO)技術と、異種基板とGaN結晶の熱膨張係数が異なることで発生する応力による結晶の割れを防止するため、異種基板とGaN結晶を結晶成長中あるいは成長後に剥離する技術が確立された。これをベースにした、住友電工のDEEP(Dislocation Elimination by the Epitaxial-growth with inverted-pyramidal Pits)法6)、三菱ケミカルの独自HVPE(ハライド気相性成長)法、サイオクス(旧:日立電線、現:住友化学)のボイド形成剥離(Void Assisted Separation:VAS)法(図1、図2)7),8) などの結晶成長技術が開発され、転位密度105/cm2台の自立GaN単結晶基板が供給されるようになり、GaN系LDの高出力化が可能になった。 図3にGaN系青色半導体LDの断面構造の典型的な一例を模式的に示す9)。屈折率導波型のリッジストライプ構造で、リッジストライプの外側は誘電体絶縁膜で覆われている。活性(発光)層は数ペアのGaInN/AlGa(In)N多重量子井戸(MQW)層で構成される。その上下を屈折率の高いp型、n型GaInN光ガイド層ではさみ、その外側に低いAl組成比(2~5%)のp型、n型AlGa(In)Nクラッド層を配置する。P型層への電子オーバーフローを防ぐ目的で、MQW活性層とp型GaInNガイド層の間にp型AlGaN(Al組成比20%)の電子ブロック層を挿入する。 日亜化学は、リッジストライプ幅45μm、ストライプ長1.2mmのLDで、出力5.67W,電力変換効率(Wall Plug Efficiency: WPE)48.1%の青色(波長:455nm)を2018年に開発、商品化した10)。2021年には、リッジストライプ幅を90μmに広げて、出力11.2W(波長:465nm)、WPE33.8%のLDを開発した11)。LDは、自立C面GaN単結晶基板上に、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition: MOCVD)法で作成される。リッジストライプの外側を覆う誘電体絶縁膜の選択で、水平横方向の屈折率差を設けて横モードの制御を図っている。一方、垂直横モードの制御技術として、キャリアを多重井戸発光層内部に、光をガイド層内部にそれぞれ分離して効率的に閉じ込める、分離閉じ込め構造(Separate-Confinement Heterostructure:SCH)を開発した。LDは、低熱抵抗(2.3K/W)を実現した独自開発のパッケージ(Side Lead Package: SLP)にジャンクションダウン方式で実装される。(図4) 複数個の青色半導体LDの光を種々の手法でビーム結合することで、コア径300μmの光ファイバーで、1kWの青色LD光を出力するレーザーモジュールなど、高出力の青色レーザー加工装置が、島津製作所12)、古河電工13)、などで開発されている。 |
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【参考文献】
【移動ページ】 個別半導体他/該当年代へ 【最終変更バージョン】 rev.001 2024/4/29 |