2014年
屋外大型表示装置用
高輝度発光ダイオード(LED)の開発
(スタンレー、東芝、日亜化学)
~個別半導体・他~

1907年にH.J. Roundが、SiC結晶に電圧を印加したとき発光することを発見したのが、発光ダイオード(LED)の起源と考えられている。しかし、1962年に「LEDの父」と呼ばれているN. Holonyak Jr. が、GaAsP赤色LEDの開発に成功したのが、本格的なLEDの始まりと言われている(1)。当時の液相成長法による結晶は欠陥が多く、発光効率は0.01%と実用化にはほど遠かった。

1969年に西澤潤一らが蒸気圧制御温度差法を発明し、高品質の化合物半導体結晶が得られるようになり、高輝度赤色および緑色LEDが実現した(2)。スタンレー電気は、1976年に輝度60mcdのGaAs赤色LED、1979年に輝度80mcdのGaP緑色LEDを商品化した。電卓など各種機器のインジケータにLEDが使用され始めた。

1980年代に入って、GaP系で輝度100mcdの緑色LEDが、GaAsP系、GaAlAs系で輝度1cdを超える赤色LEDができるようになり、屋外の情報表示板や交通信号機、車載用ハイマウント・ストップ・ランプなどに使用されるようになった(3)

1968年にH.M. Monasevitが発明した有機金属化合物を用いるMOCVD法(4)により、組成や厚さを精密に制御した良質の三元、四元化合物半導体の結晶成長が可能になり、複雑な構造のLEDが開発された。InGaAlPは、結晶の組成比を最適に選ぶことで、格子定数がGaAs基板の格子定数と一致した状態で、赤色から緑色までの発光が可能になる。1991年に東芝は、InGaAlP高輝度LEDのMOCVD法による量産を開始、輝度5cdの赤色LED, 輝度2cdの緑色LEDを商品化した(5)。図1に示すように、ダブルヘテロ(DH)構造の発光領域にくわえて、屈折率が異なる2種類の材料を光の波長の1/4の厚さで数層積層して反射効果を持たせるブラッグ反射層を設け、基板側に放射される光を上部に反射させ、さらにチップ全面が発光するように電流拡散層と電流阻止層が設けられている。

1993年に日亜化学が、1cdを超える高輝度のInGaN青色LEDを開発し、量産を開始した(6)

これにより、昼間野外での表示に要求される5000cd/m2以上の輝度を実現できる、フルカラー表示に必要な光3原色(赤、緑、青:RGB)のLEDがすべて出そろい、1995年頃から大型フルカラーLEDディスプレイがスタジアムのスコアボードなどに広く使われるようになった(7)
パッケージング技術などの進歩により、2010年代になると、幅100mを超える超大型屋外LEDディスプレイが設置されるようになった(8)(9)(10)(11)

図2に、LEDの性能向上の歴史を示す。

図1 InGaAlPダブルヘテロ構造LEDの断面図

 

図2 LED発展の歴史概略


【参考文献】

  1. N. Holonyak Jr. and S.F. Bevacqua, “Coherent (visible) light emission from GaAsP junctions”, Appl. Phys. Lett., Vol.1, p. 82, (1962)
  2. J. Nishizawa, Y. Okuno, and H. Tadano, “Nearly perfect crystal growth of III-V compounds by the temperature difference method under controlled vaper pressure” , Journal of Crystal Growth, Vol. 31, pp. 215-222, (1975)
  3. 小山 稔、“発光ダイオード(LED)とその応用”、照明学会誌、第69巻、第12号、PP.642-646、(1985)
  4. H.M. Manasevit, “Single-crystal gallium arsenide on insulating substrate”, Appl. Phys. Lett., Vol.12, p. 156, (1968)
  5. H. Sugawara, M. Ishikawa, and G. Hatakoshi, “High-efficiency InGaAlP/GaAs visible light-emitting diodes”, Appl. Phys. Lett., vol. 58, p.1010, (1991)
  6. 1993年:世界初高輝度InGaN/GaN青色LED商品化(日亜化学)
    日本半導体歴史館 個別半導体他欄
    https://www.shmj.or.jp/museum2010/exhibi318.html
  7. 高橋 和久、"高輝度LEDを利用した大型映像装置”、電気設備学会誌、vol.31, pp. 771-774, (2011)
  8. 三菱電機ニュースリリース(2014年11月18日)
    “米国ニューヨークタイムズスクエアに世界最大の 4K 表示高解像度ディスプレイ
    「マリオットマーキーズホテル」向け大型映像装置納入のお知らせ”
    http://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2014/1118.html
  9. 飯尾信哉、花村敏明、切通 聡、“大型映像表示装置"オーロラビジョン”の最新技術と新市場への適用”、三菱電機技報、vol.91, pp.529-532, (2017)
  10. 三菱電機ニュースリリース(2017年3月1日)
    “「ナゴヤドーム・106ビジョン」向け大型映像装置を納入”
    http://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2017/0301-a.html
  11. ソニー商品情報
    “新たなエンタテインメント空間に生まれ変わった「福岡 ヤフオク!ドーム」”
    https://www.sony.jp/professional/casestudy/fukuoka_20190529/

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rev.001 2021/10/27