2020年
Xバンド300W出力GaN HEMT商品化(住友電工)

~個別半導体他~


1990年代後半に開発の始まったGaN HEMTは、2007年に携帯電話基地局に採用されたのを皮切りに、マイクロ波帯、ミリ波帯で、数十W~数百Wの高出力デバイスが開発され、携帯電話基地局、衛星搭載通信装置などに広く使われている[1] [2] [3]。

住友電工は、2個のGaN HEMTを並列で構成し、入出力整合回路をパッケージ内に実装した、Xバンド(9GHz帯)動作、出力電力300Wの内部整合型増幅器を開発した[4] [5]。

GaN HEMTの基本部分は、図1に示すように、SiC基板上に有機金属CVD(MOCVD)法で形成したAlGaN/GaNヘテロ接合エピ層表面に、表面トラップ発生防止のn型不純物をドープしたGaN層を配し、その表面にソース、ゲート、ドレイン電極が配置され、絶縁保護膜で被われている[6]。高耐圧特性を得るためにフィールドプレート構造が採用されている。Xバンドでの動作で必要な電力利得、電力効率、動作電圧などを確保するために、さらには、電流コラプスと呼ばれるGaN HEMTで発生する現象を防ぐために、ゲート幅などの素子構造の最適化と、エピ成長をはじめ素子製作プロセスの改良がほどこされた結果、1.1A/mmの大きな飽和電流と、50V動作に必要なピンチオフ時の耐圧290Vを実現している。

フィンガー長170μmのゲート電極200本をインターデジット構造に配置したトータルゲート幅34mmのGaN HEMTチップ2個を並列動作させることで、9~10GHzの広い周波数領域で、パルス駆動(パルス幅100μs、デューテイサイクル10%)で、出力電力340W,利得9.3dB、電力付加効率38%の世界最高水準の高性能を実現している。入力側、出力側ともに、セラミック基板上に構成した2段のインピーダンス変換器からなる整合回路を配して、入出力端いずれもインピーダンス50Ωに整合している。

水晶発振器をベースにした高安定でコヒーレントなマイクロ波信号を送出できるGaN HEMT増幅器を用いるレーダー(固体化レーダー)は、周波数変調した長いパルス信号を送出でき、パルス圧縮技術で、マグネトロンの約1/100の数百Wの送信電力で、マグネトロンレーダーと同等以上の検知感度を確保できる。さらに、ドップラー信号処理技術で、移動する物体の速度を検知する機能を持たせることができる。GaN HEMTは10年以上の長期信頼性がありレーダーの維持費を低く抑えることが可能になる。Xバンド300W出力GaN HEMTの商品化は、固体化レーダーの普及を一段と進めようとしている。[7]

図1 GaN HEMTの断面構造

図1 GaN HEMTの断面構造
(文献[6]を参考にして日本半導体歴史館が作図)

図2 Xバンド300WGaN HEMTの内部

図2 Xバンド300WGaN HEMTの内部
(提供:住友電気工業株式会社)


【参考文献】

  1. 日本半導体歴史館個別半導体他欄、“2003年 W-CDMA基地局用GaN HEMT開発(富士通)” https://www.shmj.or.jp/museum2010/exhibi332.htm
  2. 井上和孝、佐野征吾、舘野泰範、八巻史一、蛯原要、宇井範彦、川野明弘、出口博昭、“携帯電話基地局用窒化ガリウム電力増幅器(GaN HEMT)の開発”、住友電工テクニカルレビュー、第177号、pp.97-102(2010年7月)
  3. 児玉晃忠、大沢研、石山重行、久保田幹、“衛星搭載用C帯100W高出力・高効率]GaN HEMTパワーアンプ”、 住友電工テクニカルレビュー、第202号、pp.77-81(2023年1月)
  4. 西原信、青嶋真、宮澤直行、“船舶レーダー向けX帯300W GaN HEMT”、住友電工テクニカルレビュー、第197号、pp.23-26(2020年年7月)
  5. 新製品・技術紹介、“X帯レーダ用300W小型パッケ-ジGaN HEMTパワーアンプ”、住友電工テクニカルレビュー、第205号、p.50(2024年年7月)
  6. 佐野征吾、蛯原要、山本高史、佐藤富雄、宮澤直行、“無線通信用GaN HEMTの開発“、住友電工テクニカルレビュー、第192号、pp.69-74(2018年1月)
  7. [7] 日本半導体歴史館応用製品欄、“2022年 高出力GaN HEMTを用いたXバンド全固体化レーダー(日本無線)” https://www.shmj.or.jp/application-products/ap202001.html

Ver.001: 2025/2/15