日本半導体イノベーション50選の選定にあたって
世界の半導体産業は米国におけるトランジスタの発明(1947年)を嚆矢とする。しかるに、発明品の点接触型トランジスタは構造面、性能面の抱える問題から大きく育つことはなく、半導体産業の発展はその後の数多くのイノベーションによってもたらされた。米国にあっては軍需応用、コンピュータなどの分野が半導体の主たる応用分野となってそのイノペーションを牽引した。一方日本にあってはラジオ、テレビ、電卓などで代表される民生電子分野が半導体イノベーションの牽引役となった。
両国におけるこのような応用分野の違いは技術発展の方向にもインパクトを与えた。米国では高性能化技術で圧倒的なポジションを築き、また、軍需応用のニーズに沿って軽量化のための集積化技術でも世界の先導役となった。
然るに日本においては民生分野の性格上、低価格、低消費電力化への傾注が特長として上げられる。例えばトランジスタ・ラジオの需要によってゲルマニウムトランジスタで世界トップの座を占めたこと、電卓用をターゲットにして、CMOS LSIの量産化を初めて達成したこと、更にはその延長として、高速CMOS LSIの製品化によって業界の常識を破り、主流デバイスがNMOSからCMOSに転換する契機を作ったことなどが上げられる。
半導体のイノベーションはいろいろな側面から捉えられるが、当歴史館においては、主として日本が主導したイノベーションを次の3つの分野に区分して取り上げる事にした。
■アプリケーション:
半導体の特長を巧みに応用して、新しい価値を有する製品の開発、 商用化を行なったもの
■デバイス:
発明により開発された製品、製品化・量産化の過程で世界をリードした製品、在来製品のリ・ エンジニアリングによる飛躍的な改善をしたもの
■テクノロジー:
半導体デバイスを支えるプロセス技術、パッケージング技術、 画期的な半導体製造装置など技術的に大変優れたもの
上記のカテゴリーで収集した中から「世界に輝くイノベーション」を50件厳選し、「日本半導体イノベーション50選」として展示するものである。イノベーション50選はまさに日本半導体発展のエッセンスであるということができよう。これはまた、日本から世界に向けて発せられたイノベーションを記す事によって、半導体の発展に貢献した先人たちの努力とその成果を顕彰するものである。なお、項目の選定にあたっては歴史館委員会が中心になって選定を進め、有識者の意見も聴取した上で半導体産業人協会が認定したものである。
日本半導体歴史館 館長
牧本 次生