「世界初」にならなかったトランジスタラジオ
写真A(左) 1954年に米Regency社が発売を始めた4石トランジスタラジオ
写真B(右) ソニーが試作・量産の準備をしていた「TR-52型」トランジスタラジオ
ソニーが念願のトランジスタラジオ「TR-55型」を発売したのは、1955年8月のことである。接合型による5石スーパーヘテロダイン方式で、価格は1万8,900円だった。高周波特性を良くするため、歩留まりの悪い成長(グロン)型をあえて採用しているのがソニーらしい。しかし発売に到る経緯は山あり谷ありで、座してこの新製品の誕生を見たわけではない。
1つは、発売前年の12月、米Texas Instruments社の系列会社、Regency社が4石のトランジスタラジオ(写真A)をクリスマス商戦にかこつけて大々的に売り出そうとしたからだ。結果的には不良品を出して間もなく撤退を余儀なくされたものの、ソニーは「世界初」の看板を下ろさざるをえなかった。
もう1つは、ソニー自体も不良品問題に直面し、当初のスケジュールに狂いが生じたこと。
というのもソニーは55年1月、接合型を全面的に採用した「TR-52型」を試作、量産の準備に取り組もうとしていた。ところが、夏を迎えると思わぬ事件に見舞われた。写真Bに示すように国連ビルを模してキャビネットに格子状のプラスチック板を張り付けたところ、その部分が初夏の暑さのせいでめくり上がり、発売中止に踏み切っている。「幻の国連ビル型ラジオ」と呼ばれるゆえんだ。 (A:米TI社資料、B:ソニー提供)