西澤潤一氏の「半導体メーザー」特許
西沢氏の出願した「半導体メーザー」特許の特許公報(拡大可能)
室温連続発振半導体レーザーに関する前出ベル研グループの快挙を私が初めて耳にしたのは、1970年7月初旬のことだ。人もまばらな土曜日午後、突然編集室の電話が鳴り響いたので受け取ると、当時東北大電気通信研究所の西澤潤一教授が林氏らの成功を伝えてくれた。
西澤氏がこの成果に格段の関心を払ったのは、氏自身が半導体レーザーの考え方など及びもつかなかった古い時期に、それを着想し、特許化しているからだ。
着想の原点は、1950年代半ばのメーザーの成果である。当時の固体メーザーはまだ連続的な増幅ができなかったが、西澤氏は「半導体ならそれが可能になりそうだと考えた。それから若干理論的な計算をした結果、「可能」との結論が導かれたので、1957年4月下旬、「半導体メーザー」なる名称で特許を出願した。当時はレーザーという言葉がなく、マイクロ波を増幅することをメーザーと呼んでいたのだ。
写真は同特許の特許公報で、本文の書き出しには、「本発明は半導体を用いて超短波の電気的信号の発振・増幅・検波・変調等に簡易且有利なる手段を提供するを目的とする」とある。
氏にとって無念だったのは、研究費の調達などに時間を費やしているうちに、米GE社のR.N.Hallらが1962年、連続発振(ただし液体窒素温度)の論文を発表してしまい、1年遅れになったことだ。 (西澤潤一氏提供)