江崎氏の卓抜なるアナロジー
写真A 「電気通信学会雑誌」1964年4月号表紙
写真B ダイオードの特性を喝破しているような北斎の富嶽三十六景「波間富士」
江崎氏の話を聞いていつも思うのは、アナロジー(類推)が卓抜なことだ。
いつかの座談会の際、こんな話をされた。「日本人はとかくできた製品だけを見てアメリカと比較するが、これは本当の勝負とはいえない。オリンピックの競走は同じコースを走って1位と2位の差は何秒と非常に近接した量であらわれる。しかし、科学や技術の世界では、1番と2番の間に質的な違いがある。つまり1番の人はトラックのない所を自分で切り開いていく。2番の人はその切り開かれた道をただ走っていくだけだ」。
もう1つ、ここで決定的なものを紹介しよう。「電気通信学会雑誌」1964年4月号ではエサキダイオード特集を行い、表紙を写真Aのように例の「ラクダのコブ」で飾っているが、本文の方でも江崎氏は北斎の有名な富嶽三十六景のなかの1枚を掲げ、こんな説明を加えている(写真B参照)。
「このダイオードの電流−電圧特性については、掲げた北斎の有名な神奈川沖の浪裏を参照されたい。200年の昔に画かれたこのすばらしい構図は、いみじくもダイオードの特性を喝破しているようで面白い。負性抵抗の部分は発振しているし、富嶽はexcess
current によるbumpである」。