東大グループは「固態型論理回路」
写真A 東大とNECが共同開発した初期のIC
写真B 昭和36年電気四学会連合大会に発表された論文 (拡大可能)
では、日本で正真正銘のモノリシックICを初めて試作したのはどこかといえば、東大グループがNECとの共同研究で試作したチップといえそうだ。
その成果が「昭和36年電気四学会連合大会講演論文集W」に収録されている。論文名は「固態トランジスタ直結型論理回路素子」で、当時東大工学部の柳井久義、菅野卓雄、多田邦雄、柳川隆之の4氏が名を連ねている。同連合大会が開催されたのは61年4月8日で、前出電気試験所の成果と並んで報告されているが、電試の場合は同年1月下旬に新聞発表されているので、その分早かったといえる。ちなみに、その間の2月下旬には三菱電機がやはりWH社の技術を踏襲した「モレクトロン」11種類を発表している。
タイトルに「固態」とあっていささか奇異に感じられるが、翌62年の第2報では「固体」に変更されている。このICは写真Aに示すように全長約5mmのゲルマニウム基板上に2個のバイポーラ型トランジスタ(成長接合型)と1個の負性抵抗を集積したもので、回路的にはトランジスタ直結型論理回路(DCTL)のNORゲートを構成している。下半分にトランジスタ、上半分に負性抵抗が配置され、トランジスタのエミッター、ベース、コレクター各部には超音波加工によるスリットが入れられてトランジスタが2個に分離された形になっている。
写真Bは前記学会に発表された論文。 (多田邦雄氏提供)