苦肉の策のゲルマニウム輸入
輸入ゲルマニウムの結晶片
トランジスタの技術情報はGHQなどを経由して入って来たものの、いざ試作に着手しようとすると、材料のゲルマニウムがない。何しろ、日本で研究がスタートした当時、ゲルマニウムの実物を見た人は皆無に近かったというから無理のない話である。
では、日本の研究者はそのゲルマニウムをどうやって入手したのか。もっとも信頼すべき情報は、英国からの輸入調達説である。1970年代に、佐々木亘東京大学教授から聞いた話では、「駒形作次電気試験所長、渡辺寧東北大学教授らを中心に組織されたゲルマニウム研究委員会が1949年に研究費の一部を割いて英国から子指ほどの結晶を2本輸入した。それを角砂糖くらいの大きさに切り分けて国内のいくつかの研究機関に配った」という。
写真はその輸入ゲルマニウムの結晶片で、駒形所長から渡辺教授に郵送されてきたもの。同教授が退官する際、西澤潤一教授は「大切なものを渡す」といわれて、これを受け取った。西澤教授は有難く頂戴したものの、「もう少し早く下さればよかったのに」と内心思った、と後日明かしている。(西澤潤一氏提供)