アモルファス半導体ブームの火付け役

 
1969年に取材した際のOvshinsky夫妻

 Stanford Ovshinskyと名乗る人物から電話がかかってきたのは、1969年の春まだ浅い頃だった。直感的にアモルファス物質の研究で話題のOvshinsky氏であることがわかった。前年11月発行の米物理学会誌に「不規則構造中における可逆的スイッチング現象」と題した論文を発表、その評価をめぐって様々な論議を呼んでいた。
 「自分の研究成果を君に説明したい。帝国ホテルに宿泊しているので来てほしい」
 訪ねてみると、生化学者のアイリス夫人と一緒で、挨拶もそこそこに難解な話を聞く羽目になった。
 氏の研究対象はイオウ、セレン、テルルなどのカルコゲン元素を用いたカルコゲナイドアモルファス半導体と呼ばれるもので、液体急冷法によって作製される。この物質は熱力学的に非平衡状態にあるため外部からの熱や光などのエネルギーによって構造変化を起こし、これを電気的なスイッチ、メモリー素子や光学材料に用いようというものだ。今日、アモルファス半導体が広範に利用されていることを考えれば、ブームの火付け役になった成果だった。
 ところで、Ovshinsky氏は1922年、米国オハイオ州の生まれ。高校卒業後、工具製作者、機械工などを経て、神経細胞シナプスの神経生理学的メカニズムの研究、薄膜状の電気化学アモルファススイッチなどの開発に従事した後、1960年にアイリス夫人とともにEnergy Conversion Devices社を創立した、立志伝中の人物。1990年にはキヤノンとの合弁でUnited Solar Systems社を設立、太陽電池の製造に取り組んだ。
 写真は1969年に取材した際のOvshinsky夫妻。

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