日本初のトランジスタ応用製品
試作されたトランジスタラジオ
日本で最初のトランジスタ応用製品が何かは必ずしも明確ではないが、私見では電気通信研究所が試作したトランジスタラジオと電蓄が嚆矢をなすものと考えている。
試作トランジスタがそれなりに作られるようになり、特性的にも一定の水準のものができるようになると、当然の成り行きとして「応用」が課題となった。そこで試作の対象となったのがラジオと電蓄だ。この作業では東大の電気を卒業して配属になってきた渡辺誠氏(後に厚木電気通信研究所長)が辣腕を振い、案ずるよりうまく事が進んだ。彼は電気回路に詳しく、学生時代に真空管式のテレビを組み立てていた。ただトランジスタ回路となるとトランスやコイルひとつとってもトランジスタ用が必要で、渡辺氏の活躍があったればこその成果だった。
試作されたトランジスタラジオ(写真)と電蓄は1953年6月、東京・日本橋の三越で開かれた「伸び行く電波展」で展示と実演が行われた。特に電蓄の場合は米国製の20インチほどの大きさのスピーカーを素晴らしい音色で響かせたため、「こんなちっぽけなトランジスタでこんな大きな音が出る」と参観者は目を丸くした。
(岩瀬新午氏提供)