1980年
6 kV/1.5 kA 光トリガサイリスタ実用化(日立、東芝)
〜個別半導体・他〜


光トリガサイリスタ(光サイリスタ)は、光信号によって直接点弧させるサイリスタである。制御回路と電力回路とを完全に絶縁でき、ノイズによる誤動作を少なくすることが出来る。周波数変換設備(FC: Frequency Converter)や直流送電(HVDC: High Voltage Direct Current)設備における直交変換装置などに用いられる。

光トリガサイリスタは、1975年ごろからGeneral ElectricやAEG-Telefunkenで開発が進められていたが、当時の微弱な光信号への対応が中心で、耐圧数kV, 電流容量数kAに対応できるサイリスタは未開発だった。日本では、発光ダイオードや半導体レーザなど高輝度光源の開発で世界をリードしていたこと、国内に50Hzと60hzが共存し周波数変換の必要性が大きいなどから、光トリガサイリスタの開発が推進された。

1980年に日立の小西らは、当時としては世界最大容量の光トリガサイリスタ(耐圧6kV、電流容量1.5kA)を開発した。サイリスタの直径は80mmφで、10mW弱の光信号で動作した。東芝、三菱もほぼ同時期に、同等規格の光トリガサイリスタの開発に成功した。

その後も高耐圧、大容量に向けての開発が推進され、1988年に東芝は6kv/2.5kAの光トリガサイリスタを商品化した。1992年運転開始の東京電力新信濃周波数変換所の300MW変換装置、1993年運用開始の北海道―本州600MW直流送電設備に6kv/2.5kA光トリガサイリスタが採用された。
1995年には、東芝、三菱電機が当時としては世界最大容量の8kV/3.5kA、6インチφ光トリガサイリスタの開発に成功した。

2000年運転開始の阿南・紀北(紀伊水道)直流幹線設備はこのサイリスタで構成された。阿南は東芝、紀北は日立、三菱電機の設備である。

以上のように、日本の光トリガサイリスタ及びその応用技術開発は世界的にも高く評価された。


図1 光トリガサイリスタの断面構造略図(Pp, Pnは光ファイバー)(2)

図2 光トリガサイリスタの全体写真(サイリスタ本体、光ファイバー並びにLED)(2)

【参考文献】
(1) D. Silber, & M. Fuellmann, “Improved gate concept for light activated power thyristors”, IEEE IEDM Digest of Tech. Papers, pp. 371-374, (1975)
(2) N. Konishi, M. Mori, M. Naito, T. Tanaka, K. Miyata, & M. Okamura, “A 6000 V, 1500 A light activated thyristor”, IEEE IEDM Digest of Tech. Papers, p. 642-645, (1980)
(3) H. Ohashi, T. Tsukakoshi, T. Ogura, & Y. Yamaguchi, “Novel gate structure for high voltage light-triggered thyristor”, Japanese J. Appl. Phys.,Vol. 21-1, pp. 91-96, (1982)
(4) S. Katoh, J.H. Choi, T. Yokota, A Watanabe, T. Yamaguchi, & K. Saito, “6-kV, 5.5-kA light-triggered thyristor”, IEEE Int’l Symposium on Power Semiconductor Devices and IC’s, p. 73-76, (1997)
(5) T. Nakagawa, K. Satoh, M. Yamamoto, K. Hirasawa, & K. Ohta, “8 kV/3.6 kA light triggered thyristor”, IEEE Int’l Symposium on Power Semiconductor Devices and IC’s, p. 175-180, (1995)
(6) T. Mimura, Y. Tsunoda, Y. Tadokoro, & N. Yamano, “ A 8 kV 3500 A light triggered thyristor”, IEEE Int’l Symposium on Power Semiconductor Devices and IC’s, p. 181-184, (1995)

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rev.000 2010/10/26